《大地割り》学会

  • 2022.3.12
    その他
    OONS

    ■はじめに

    あるとき、モダンチャレンジのリストで1枚のカードが話題になりました。

     

    《大地割り》。
    一見すると「選択権が相手にある2:1交換呪文」という弱すぎるテキストですが、最序盤に打てれば土地破壊として使える(2:1交換だとしても十分な見返りを見込める)場合があることに加え、モダンならば《トロウケアの敷石》などと組み合わせることで実質1:1交換に持って行くことができます。

     

    今回は、このカードがPauperでできることについて考えていきます。

     

    なお、自分自身、「コレが最適解だ!」という結論の75枚は導き出せる段階にいません。
    そのため、今回は結論としてのデッキリスト紹介ではなく、過程としての考え方やアイデアの紹介をする記事になります。
    いずれ何かしらの満足したリストを作れれば第二弾としての記事を上げるかもしれませんが、記事がいつになっても上がらなければそういうことだと察してください。

     

    ■大方針

    「フェアに使うと、テキスト通りに弱いカードである」というのは、大前提として据えていいと思います。

     

    例えば、《胆液の水源》を置いてからこれを唱えることで、相手のパーマネントと実質0:1の交換ができますが、「選択権が相手にある0:1交換ソーサリー」でしかありません。
    複数枚のカードを要する不安定性を抱えつつ、合計3マナ支払う程の価値があるとは言えない動きでしょう。

     

    そのため、このカードを「好きだから」だけでなく、合理的な理由付けをもって採用するのであれば、「相手に選択肢を与えない先手2Tなり後手1Tなりから唱えて、土地を捧げさせること」に寄せ切って勝利することに全力を尽くすべきだと考えます。

     

    ■構築理念 -Pauper環境の壁-

    PauperのTierデッキに対する《大地割り》の有用性を考えてみると、土地破壊プランの障壁となりうるカードが多すぎることに気付かされます。

     

    ・ボロス:
    《スレイベンの検査官》が邪魔すぎる上に、最近《実験統合機》《月皇の古参兵》《ヴォルダーレンの美食家》などが増え、更に面倒に。

     

    ・親和:
    《彩色の星》《テラリオン》などで簡単に打ち損にさせられてしまいます。

     

    ・各種フェアリー:
    各種キャントリップ、フェアリー、忍者など、そもそも土地破壊デッキ自体に強い要素のオンパレードです。

     

    ・バーン:
    《ヴォルダーレンの美食家》が参入したことで、土地破壊のハードルが上がりました。

     

    ・緑単/エルフ:
    そもそも1マナアクションが多いことに加え、《クウィリーオン・レインジャー》で《森》を逃がすことで常に《森》を1枚残すことができ土地破壊に強いデッキです。
    さらにエルフは、そもそもマナクリーチャー自体が土地破壊を否定するため問題外です。

     

    …そろそろやめましょう。パッと思い浮かぶだけでも、こんなところですね。
    これらの存在を考えると、「《大地割り》を使う」ことと「Tierデッキに安定した活躍を見込む」こと自体が、もはや相容れない関係性にあるように思えます。

     

    また、これらに限らず根本的な話として「コモン構築であるPauperは軽量呪文が環境の中心を占める」という部分もあるので、Pauper環境に適合するカードかというと、「全くもってそうでない」と言わざるを得ません。

     

    続唱/ペスト/トロンなど、元々土地破壊が有効な遅めのデッキには刺さりそうですが、それらのデッキにはわざわざ《大地割り》を打つまでもなく、マナ加速から2ターン目に《Thermokarst》《石の雨》を打っていった方が安定するでしょう。

     

    …となると、「どんなデッキにも安定した勝率を出せる丸いデッキを目指す」というよりは、「一部の有利な相手にだけは勝てるように尖らせる」か、「押し付けを全力で尖らせて、””もし綺麗に噛み合えば””誰にでも勝ちうるようにする」か、このどちらかが現実的な目標になりそうです。
    個人的な趣向として、自分は前者をあまり好まないので、今回は後者で考えていきます。

     

    ■5枚目以降を含めた《大地割り》の特徴やシナジーの考察

    《大地割り》を主軸に据えた目標に向かう、かつその目標のためには最序盤の動きが肝心となれば、《大地割り》は4枚では到底足りません。
    呪禁オーラだって呪禁クリーチャーを12枚積むわけですし、《大地割り》と同じ役割のカードは最低でも2種類は欲しいところです。
    その候補を挙げつつ、《大地割り》と一緒に色々考えていきましょう。

    5枚目以降の《大地割り》として、第一案に挙がるのは《倒壊》《振動》です。
    これらは、《大地割り》と近い「2マナ以下の土地破壊」という共通項で集めています。まずはこれらと合わせた採用を考えてみます。

     

    これらの特徴として、まずマナコストの軽さがあります。
    決して小さくないデメリットと引き換えに、超高速での土地破壊を実現します。
    特に強力なのは後手1ターン目の土地破壊で、本来の土地破壊デッキではほぼ不可能な「後手になっても、相手に土地2枚以上の並びを許さない」動きが可能です。《対抗呪文》を構える余裕を与えてしまうかどうか、《血の署名》のキャストを許すかどうか、と言えば土地破壊デッキにおけるここのメリットの大きさが伝わりやすいでしょうか。

     

    この点では特に強烈なのが《大地割り》で、後手1ターン目に《水蓮の花びら》や《猿人の指導霊》からこれを唱えて土地を割り、その後に土地を置くことで、1ターン目から土地枚数で相手をまくることができます。
    もちろん相手が1ターン目に何かパーマネントを出していればこのプランは崩れますが、《大地割り》を使う以上そこの腹は括らなくてはいけません。ソーサリーである以上は物理的に無理なので、あくまで”できる限り”相手に選択肢を与えない、のが目標です。

     

    そして、マナコストの軽さの代償として、基本的には自分の土地もモリモリ減っていくという点があります。つまり、土地破壊の本来の目的である「相手と土地の枚数差をつける」という目標に向かうことができないということです。つまり、マナの優位を活かした勝利手段ではなく、少ないマナからでも目指せる勝利手段を採用する必要があります。

    また、2:1交換のようなアクションを多く取ることから、相手のデッキが機能しだしてフェアな戦いになった瞬間にほぼ負けが決まってしまいます。機能不全にさせきって完全なマウントを取るか、それとも20点削り切るか、どちらにせよそれなりに速度が求められます。

     

    次に、《大地割り》《振動》の共通項として、破壊ではなくお互い生け贄という部分が挙げられます。なお、この点で言えば、何かしらサポートは必要ですが《悪忌の吹雪集め》も似た性能を持ちます。(《大地割り》で彼を生け贄に捧げるのも面白いでしょう)

     

    この要素による影響は、以下の4点が挙げられます。
    ①. 破壊不能土地を処理できる点。
    ②. 対象不適正になりえない点。
    ③. 狙う土地を選べない点。
    ④. 場合によってはこちらの損失を回避できうる点です。

     

    ①②は単純に、本来は土地破壊デッキに刺さる破壊不能土地や、土地破壊に対して対象不適正を狙ってくる《進化する未開地》や《幽霊のゆらめき》にも有効な土地破壊であるという強みです。

    ③は、地味ながら響くデメリットです。例えば相手の場に《平地》《島》が1枚ずつあれば、次の土地を探させないために《島》を破壊したいところですが、おそらく《平地》を捧げられてしまうでしょう。できることなら「土地しかない」だけでなく「土地1枚しかない」状況で打ちたい呪文です。

    ④は、例えばこちらの盤面に《火荒の境界石》《脈火の境界石》だけの状態で《振動》を唱えればこちらに損失が無かったり、後手1ターン目に土地を置く前に《水蓮の花びら》から《大地割り》を仕掛ければ(《水蓮の花びら》自体の損失は別として)こちらに損失が無かったり、細かいシチュエーションはともかく1:1交換として打てる状況が物理的にはありうるということです。

     

    次に第二案として、《石の雨》《溶鉄の雨》《略奪》など、よくある3マナ土地破壊との組み合わせを考えます。
    《大地割り》が主軸というよりは、どうしても後手が弱い土地破壊デッキの欠点を解決しうる手段として《大地割り》を採用する形です。

     

    ここを組み合わせる際のキーカードが《水蓮の花びら》。一般的な土地破壊デッキは、2ターン目の土地破壊を実現するために《鋭き砂岩》などのマナ加速を採用しますが、追加のマナ加速枠として《水蓮の花びら》を取ることで、前に書いた後手1ターン目でのまくりを実現する可能性を作りつつ、《大地割り》の生け贄のタネともなりえます。
    また、そういう意味では《猿人の指導霊》も近しい役割は持てるでしょう。《水蓮の花びら》と異なり墓地を肥やせず《大地割り》のタネにもなりませんが、ゼロから赤マナを生み出せるのが重要です。ここはマナ加速の枠をどれだけ割くか次第ですね。

     

    この3マナ土地破壊プランでは、さほど自分の土地は削られないため、しっかり「相手と土地の枚数差をつける」目標に向かうことができます。マナコストの重たい脅威も、フィニッシュ手段として採用することができるでしょう。

     

    基本的にはこれらの二案、もしくはそのハイブリッドで考えることになります。

     

    ■勝利手段について

    土地を全て割り続けても、相手が1マナから展開してきうる脅威を対処し(もしくは踏み潰し)つつ、勝ち切らないと意味がありません。

     

    まず、《倒壊》《振動》を主軸にしたスーサイド土地破壊プランの場合。
    自身もマナが少ない状況を強いられるため、選択肢は限られます。

     

    第一案は、シンプルに 1マナで唱えられる探査クリーチャーが挙げられます。
    赤い探査クリーチャーはいないため、黒を触って《グルマグのアンコウ》、もしくは緑を触って《わめき騒ぐマンドリル》が適切でしょう。《マンドリル》には、相手の《アンコウ》や《殺し》で止まるリスクがあるので、色を無視した単体バリューだけで見れば《アンコウ》が一歩勝ります。特に、「最強の1マナ域である《アンコウ》で止まってしまうかどうか」という課題は、土地破壊デッキのフィニッシュ選定において特に重要な要素です。

     

    ただし《マンドリル》独自の強みとして、《大地割り》に緑を合わせることで《収穫のワーム》を採用できるという側面があります。2/3/2というサイズに加えて、生け贄に捧げた土地を回収することができ、テンポ面でもアドバンテージ面でも優秀です。土地破壊からフィニッシャーに繋ぐ中継役として、ここまで優秀なカードはそうそうありません。なんなら《アンコウ》に無理矢理これを合わせて、ジャンドカラーでワガママ構築を目指すことを考えてもいいくらいのバリューはあります。

     

    その他、緑の選択肢としては《炎樹族の使者》《農芸師ギルドの魔道士》《土地守》なども挙げられます。よりどりみどり。緑だけに。

     

    第二案としては、《カルドーサの再誕》があります。《大地割り》と噛み合う《彩色の星》などのアーティファクト (※《大地割り》のためだけに入れるには弱い)が、これとも噛み合います。本来であれば1/1トークンに刺さってしまう《焦熱の連続砲撃》《息詰まる噴煙》《黒死病》などを恐れる必要がない点で、デッキコンセプト自体との噛み合いも良好です。《ボーラスの占い師》どころか《スレイベンの検査官》だけで簡単に止まってしまうため、何かしらサポートは確実に必要ですが、それを踏まえても一考の余地はあるでしょう。

     

    なお、このようなアーティファクトシナジーを入れつつ《アンコウ》のために黒をタッチする場合、《命取りの論争》まで手を伸ばしたくもなります。《悪忌の吹雪集め》との噛み合いも素晴らしいです。しかし、そういう方面に寄せすぎると土地破壊としての純度が下がり、普通の赤黒アリストクラッツに不純物が入っただけの変なデッキになってしまう点は要注意です。

     

    このプランのサポートとしては、《火花鍛冶》が有用そうです。土地1枚から展開されうるクリーチャー(特にフェアリー)を処理できて単体でも噛み合い、かつ《カルドーサの再誕》と合わせることで広い範囲を除去できます。マウントを取り切る構えになるので、バーン相手でない限りライフロスはそこまで痛くありません。(逆に、これに依存することはバーン相手をほぼ切り捨てることと同意義とも言えます)
    また、ゲームの高速化と《アンコウ》の除去を兼ねて、さらに《ゴブリンの手投げ弾》を合わせる考えもあるでしょう。《悪忌の吹雪集め》も噛み合います。

     

    また、最近追加された《ネットワーク端末》も、勝ち手段というよりはマウント手段として、候補になるかもしれません。コンセプト上3マナというのは結構大きいコストですが、スマートに多色サポートをしつつ追加の土地破壊を探しに行き、かつ《振動》《悪忌の吹雪集め》との相性も良好です。

     

    その他の候補としては、《ケルドの矛槍兵》《村の鉄鍛冶》などパワー3超えの先制攻撃、《貫かれた心臓の呪い》《熱錬金術師》《ケッシグの炎吹き》など火力パーマネント、マウント維持に向けた安定感のある《燃え立つ預言者》、速度特化の《窯の悪鬼》《祭り壊し》、あとは《ダークウッドのベイロス》などが挙げられます。
    《血茨》《キイェルドーの死者》なんかも相手によっては強烈ですが、元々不安定なデッキをさらに不安定にしてしまうので流石に怪しいでしょう。今回は除外します。

     

    次に、《石の雨》系統の基本ランデスプランの場合。
    こちらは、もちろん探査など上に書いた案もアリですが、それなりに重いカードも選択肢に入れることができます。

     

    筆頭候補は《真紅艦隊の准将》。《アンコウ》に怯まないパワー5、そしてマナ消費無く次以降の土地破壊を引き込む統治者を得ます。また、その点で言えば、メタ次第で《黒薔薇の棘》も良いでしょう。キル速度はガタ落ちですが、《殺し》《水流破》が効かないというメリットがあります。
    例えば、土地破壊呪文がデッキに12枚入っているとして、統治者マウントによって相手の倍のカードを引くことができれば、土地24枚の相手の土地と同じ期待値で土地破壊を引き込み、土地にフタをし続けることができます。(実際は、色々絡み合いそんなうまくいきませんが…)

     

    次に挙がるのは《乗り込み部隊》ですが、わざわざ《大地割り》を採用して前のめりに寄せるコンセプトでは、重さの面でも続唱先の面でも安定しないように思います。多分マナ加速しかめくれません。このカードは、《大地割り》を採用しない、普通の土地破壊デッキで使うのがいいですね。

     

    《アヴァラックス》系統については、続唱と異なり裏目は無いので、選択肢として考えてもいいでしょう。
    毎ターン重いコストがかかり大きな隙を作るこれらは、《大地割り》の有効活用のために土地を全力で縛り付けたい今回のデッキより普通の土地破壊デッキが最適な気もしますが、相手に少し展開されてしまったクリーチャーを踏み潰せるサイズとアドバンテージで、強引な勝利を収めることができそうです。

     

    また、《死の国の憤怒犬》も面白い候補です。そもそも2マナ3点クロック自体がそう悪くないこともあり、採用を考える価値はあると思います。
    が、相手がパワー1のブロッカーを出すたび4マナ払って蘇生することになってしまうので、必死に土地を割り続けて得たマナの優位を反転させてしまいうる気もします。1~2枚いてもいいかもくらい?

     

    個人的に好きな《炎血の精霊》も推したい…ものの、さすがに除去耐性も火力の数値も足りていないかな…

     

    ■おわり

    おわり!
    今回の案をもとに具体的な構築を何パターンか考えつつ、次回何かしらリストを上げられるよう、頑張ります!

TOP

© Copyright pauperMTG.com