金枠Pauperのススメ~存在しないフォーマットを語る~

  • 2021.4.30
    レポート
    OONS

     

    ■はじめに

    当時は3月、ゴールデンウィーク頃の企画をどうしようか?と3人で話す中、さいとーさんの発した悪魔の囁き。

     

    「ゴールデンだし金枠Pauperとか…」

     

    「絶対楽しい」

     

    これが、そこから撮影日までの僕の生活を大きく歪めることになるとは、当時は思ってもいませんでした。

     

    ■環境研究

    発案者であるさいとーさんを中心としつつ、以下のルールを定めました。

     

    ・金枠のコモンカードのみでデッキを構築、メインボードのみ一本勝負のBO1。
    ・”金枠”の定義は以下とする。
     ・枠が金色(黄色?)のもの。
      以下のカードがそれにあたる。
      ・カード右上のマナコストがマルチカラーであること
      ・混成マナのみのカードは金枠ではないため除外
      ・土地は「好きな色」系(具体的には後述)
      ・旧枠でも新枠でもOK
       ※無色土地でも使われる茶色枠の土地はNG

     

    ごちゃごちゃと書きましたが、以下の例を見るとわかりやすいです。
    要するに「枠の見た目で判断」ということになります。

     

    OK例

     

    NG例

     

    このルール、特に土地が曲者で、
    ・《誘惑の洞窟》系
    ・《断ち割る尖塔》系
    ・《抵抗者の居住地》系
    ・興隆ランド(Thrivingランド)
    以外の選択肢がほぼありません。
    逆に言えば、デッキの色は3~5色あたりで広めに取れることになります。

     

    ■カードプール研究

    いつものとこ(Wisdom Guild様)にて、使えるカードを全て確認し、傾向などを分析。
    これが非常に楽しく、気が付けば仕事中にもこれを考え、睡眠時間も削り、全力で没頭していました。

     

    いきなり話が逸れますが、その調査の際に《ディンローヴァの恐怖》がヴィンテージ使用不可扱い(構築範囲をヴィンテージに絞るとヒットしない)になっていることに気付きました。なんででしょうね。

     

    それはいいとして、環境についてしっかり例示や理屈など書いていくとかなり長くなってしまうので、結論だけ箇条書きで挙げていきます。

     

    <全般>
    ・最も軽い呪文が2マナ、その2マナ域カード陣は不特定マナシンボルを含まない
     ※つまり、2ターン目までは暇なので、《断ち割る尖塔》の1マナ要求が実質デメリット無し

     

    <クリーチャーについて>
    ・《ジャンドの斬刃》サイクル筆頭に、2マナ域のアグロ生物に優秀なものが多い
    ・守りに強い《器用な決闘者》のスペックが高く、アグロを組むなら要考慮
    ・3マナ域のクリーチャーは、2マナ域のクリーチャーと比較してコスパ微妙なのが多い
    ・飛行/到達持ちクリーチャーに戦闘面で優秀なものが少ない
    ・《カミソリひれのハンター》《ラクドスの痰吐き》という2種のティム生物がいる
    ・《セレズニアの福音者》は強いが、上記ティムがいるため環境的に怪しめ
    ・《死の一撃のミノタウルス》など著名な1マナサイクリング生物は大体金枠
     ただし墓地肥やしを活用できる手段が《よろめく根茎》くらいしかない
    ・マナクリーチャーは2マナ2/2で複数存在するが、1色しか出ない。
     複数色を出したければ《豊穣の痕跡》を活用すること。

     

    <呪文について>
    ・除去は、2マナ域の《終止》《苦悶のねじれ》を筆頭に、それなりに優秀
    ・黒を含まない優秀な除去が少ない
     ⇒プロ黒が、一部の黒以外の除去から守れれば呪禁に近い意味を持つ
      ※黒以外の除去はオーラ・火力・バウンス
    ・基本的に打ち消しは3マナ以上(《妨げる光》のみ2マナ)
    ・布告除去が無い
    ・全体除去が《玉砕》くらいしか無い

     

    ■デッキ候補

    上記カードプールから、以下のデッキ案を考えました。
    わざわざ載せませんが、メタゲームを把握するため全デッキ仮組みで60枚並べるところまでは進めています。

     

    ・グリクシス軸コントロール

    《カミソリひれのハンター》《ラクドスの痰吐き》という優秀なシステムクリーチャー、《終止》《苦悶のねじれ》《はね返り》《魂の操作》という優秀な妨害呪文、また《小柄な竜装者》という数少ないまともな飛行クロックが全てグリクシスカラーに収まる。
    かつ、除去コントロールが苦手な横展開やプロ黒にも《玉砕》で多少はケアできる。

     

    ・ナヤ軸呪禁オーラ

    2/2/2プロ黒の《ラノワールの騎士》《ヴァレロンの異国者》8枚体制で、《アルマジロの外套》《スクイーの抱擁》《水銀の短剣》などをペタペタ貼っていく。
    《スマーラの森整形師》で安定してアドバンテージを取れるのも魅力。

    プロ黒を乗り越えてくる妨害には以下で対処。
    ・火力:タフネス上昇オーラで対処
    ・オーラ:賛美が噛み合う《クァーサルの群れ魔導士》で対処
    ・バウンス:プレイングで被害を抑える
    ※プレイアブルなバウンスは《応用生術》《劇的な救出》くらいで、サイドなしBO1ではそうそう何枚も積まれるものではないので、よほど1体に依存しすぎなければどうにかなる。

     

    ・ナヤ軸アグロ

    《ジャンドの斬刃》サイクル、プロ黒2種など優秀な2マナ域を中心に構築。
    3マナ域生物が微妙なプールなので、身としても悪くない《ザル=ターのドルイド》《ヴァレロンに仕える者》を使い2⇒4(2×2)マナのジャンプアップから高速展開を図る。
    プロ黒2種がいるため、呪禁オーラの要素も入れることができる。

     

    ・オルゾフ軸ドレイン

    《欲深いスラル》《重要人物のペット》《盲目の狩人》という優秀なドレイン飛行クロックを中心に、直接的な本体ダメージと飛行クロックで攻め立て、《荒廃稲妻》《マルフェゴールの息》などでフィニッシュ。
    環境的に飛行や到達が脆弱なことから飛行クロックが通りやすい上、《清純のタリスマン》も《ムラーサの胎動》も無いため直接的な本体狙いに対する対抗手段が少なく、見た目以上に「環境に刺さる」デッキと言える。
    個人的にはクリーチャー陣のイラストの一貫性が強いのがすごく好き。

     

    ・サイクリング根茎

    名前の通り、サイクリング生物をモリモリ回して巨大な《よろめく根茎》を降臨させる。
    《よろめく根茎》自体に除去耐性は無いものの《スクイーの抱擁》《魂の操作》など死亡後の回収手段は多く、また中盤以降は普通にサイズが大きいサイクリング生物を連打できるため、速度的に間に合いさえすれば案外息切れしづらい。ただやはり、4マナスタートは速度的に間に合わないように思われる。

     

    ■デッキ選択

    一本勝負における安定性と万能さ、ゲームを自分のペースに持ち込む力、パーマネントの多さ(せっかく金枠構築なので)から、ナヤアグロを選択しました。

     

    <デッキリスト>

     

    4:《ザル=ターのドルイド/Zhur-Taa Druid》
    4:《ヴァレロンに仕える者/Steward of Valeron》

    4:《ジャンドの斬刃/Jund Hackblade》
    4:《バントの信刃/Bant Sureblade》
    4:《ラノワールの騎士/Llanowar Knight》
    4:《ヴァレロンの異国者/Valeron Outlander》
    2:《ゴブリンの軍団兵/Goblin Legionnaire》
    2:《クァーサルの群れ魔道士/Qasali Pridemage》
    1:《瘡蓋族のやっかい者/Scab-Clan Mauler》

     

    3:《水銀の短剣/Quicksilver Dagger》
    4:《アルマジロの外套/Armadillo Cloak》
    3:《嵐呼びの加護/Stormcaller’s Boon》

     

    4:《断ち割る尖塔/Rupture Spire》
    4:《興隆する島嶼/Thriving Isle》
    4:《興隆する木立/Thriving Grove》
    4:《興隆する絶壁/Thriving Bluff》
    4:《興隆する荒野/Thriving Heath》
    1:《誘惑の洞窟/Cave of Temptation》

     

    各カードの採用意図や調整内容は以下に列挙します。

    ・2⇒2×2のジャンプアップの期待値を上げるため、《ザル=ターのドルイド》《ヴァレロンに仕える者》はフル投入、土地も3枚目まで安定して引けるよう20枚は確定

    ・プロ黒2種の実質呪禁が強力であることに加え、他のクリーチャーが《器用な決闘者》を乗り越える手段にもなるため、《アルマジロの外套》《水銀の短剣》を投入

    ・妨害系オーラの対策と《器用な決闘者》の対策(賛美のタフネス修正)を兼ねて《クァーサルの群れ魔道士》を投入

    ・アグロとしての純度を下げず《セレズニアの福音者》を対策するため《ゴブリンの軍団兵》を投入

    ・飛行を止める手段が少ない環境のため《嵐呼びの加護》を投入

    ・前述の《嵐呼びの加護》に加えて《暴力的な突発》まで入れてしまうと安定しないので、こちらは無し

    ・色事故でテンポを阻害しないよう、黒は除外

    ・2⇒2×2のジャンプアップの際に緑マナを絡めたアクションを必ず含める必要があることから、クリーチャーは緑絡み中心

    ・除去コントロール相手に微妙なこと、緑を含まないことから《ウォジェクの矛槍兵》は非採用

    ・2マナ域が中心で、要求コストに不特定マナを含むカードが少ないため、基本的にはタップイン有色ランドを採用

    ・マナクリーチャーが緑しか出さないこと、プロ黒との相性も良いことから、《誘惑の洞窟》を1枚だけ投入

     

    デッキの回し方についても語る部分は多々あるのですが、流石に需要が無いのでこの辺りでやめておきましょう。

     

    結果は動画をご覧いただければと思いますが、(細かいプレミや事故などはあったものの)構築の面では間違いない、ある種一つの「完成形」に近いものが組めたのかなと満足しています。
    強いて言うなら《誘惑の洞窟》の採用だけちょっと怪しいかもしれないですけどね。そのくらいです。

     

    ■他2人のデッキ

    さいとーさんと加藤さんのデッキも置いておきます。

     

    <さいとーさんデッキ>

     

    4:《よろめく根茎/Rhizome Lurcher》
    4:《潮の虚ろの大梟/Tidehollow Strix》
    4:《意思切る者/Architects of Will》
    4:《死の一撃のミノタウルス/Deadshot Minotaur》
    4:《ガラス塵の大男/Glassdust Hulk》
    4:《巨怪なオサムシ/Monstrous Carabid》
    1:《とぐろ巻きの巫女/Coiling Oracle》

     

    4:《スクイーの抱擁/Squee’s Embrace》
    4:《成長のらせん/Growth Spiral》
    4:《忌まわしい回収/Grisly Salvage》
    2:《アルマジロの外套/Armadillo Cloak》
    1:《魂の操作/Soul Manipulation》

     

    4:《興隆する荒野/Thriving Heath》
    4:《興隆する島嶼/Thriving Isle》
    4:《興隆する湿地帯/Thriving Moor》
    4:《興隆する絶壁/Thriving Bluff》
    4:《興隆する木立/Thriving Grove》

     

    OONSのデッキ案にもあったサイクリング根茎です。
    《忌まわしい回収》が、《よろめく根茎》を探す意味でも墓地を肥やす意味でもいい感じです。
    速度が足りない部分をカバーするため《潮の虚ろの大梟》を入れています。

     

    <加糖さんデッキ>

     

    4:《とぐろ巻きの巫女/Coiling Oracle》
    3:《セレズニアの福音者/Selesnya Evangel》
    3:《返済代理人/Deputy of Acquittals》
    3:《器用な決闘者/Deft Duelist》
    3:《翼のコアトル/Winged Coatl》
    3:《ディンローヴァの恐怖/Dinrova Horror》

     

    2:《苦悶のねじれ/Agony Warp》
    4:《成長のらせん/Growth Spiral》
    2:《魂の操作/Soul Manipulation》
    3:《ひらめきの瞬間/Eureka Moment》
    4:《天上の待ち伏せ/Ethereal Ambush》
    4:《結晶化/Crystallization》

     

    3:《生存者の野営地/Survivors’ Encampment》
    4:《興隆する荒野/Thriving Heath》
    4:《興隆する島嶼/Thriving Isle》
    4:《興隆する湿地帯/Thriving Moor》
    3:《興隆する絶壁/Thriving Bluff》
    4:《興隆する木立/Thriving Grove》

     

    守りに強い2マナ域クリーチャーで序盤を凌ぎつつマナ加速、《天上の待ち伏せ》《ディンローヴァの恐怖》でフィニッシュします。
    プロ黒が強いメタゲームを予期してか、黒を含まない除去手段を多く採用しているのが特徴的です。

     

    ■おわりに

    存在しないフォーマットで遊んだ会でした。

     

    しかしそれでも、環境の研究に死ぬ程没頭して努力を重ね、結果を出す爽快感は何物にも代えがたいものがありました。
    カードプールがちょうどいい感じに制限され、「カードプールが全カードを1枚1枚読める程度の枚数であり、全然自由が無いんだけど、10人中10人が同じデッキを作ってくるほど縛られてもいない」プールだったからこそ、ここまでのめり込めたんだと思います。

     

    僕たちは次の企画で何をするのでしょうか(本当に未定)。
    次の企画でも、ここまでのめり込めるものをできたらいいなと、今から楽しみです。

     

    動画越しにどこまでこの楽しさが伝わっているかわかりませんが、お楽しみいただけていればいいなと願っています。

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